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登記の公信力
(2007年1月号 VOL.66)

不動産を購入したり、建物を建てたりしますと登記をしますね。
登記には、公信力はありませんが、対抗力がある。と、以前(VOL21)にお話し致しました。
「公信力がない。」とは、登記を信じて取引をしても権利は守られないという事です。
一方、「対抗力がある。」とは、登記をしておけばその権利は守られるという事で、「公示の原則」とも言い ます。
不動産登記の性質を現した大切なところですので、復習の為に再度、記載致しますね。(あっ、古いコー ナーの使いまわしだ!なんて言わないでください。)

ところで、不動産を購入するとどうして登記をしないといけないのでしょうか。
私たちが土地や建物を購入すると必ずと言っていいほど登記をします。
この登記と言うのは法務局という公の機関に"どこどこの不動産は誰々の物です。"と登録をすることで す。
この登録(登記)をしていないと他人に対して不動産の所有権を主張できないのです。なんか面倒くさい話 ですよね。
一般的には物を買いますと、その物の引渡しを受けて所有者になります。(簡単な話ですよね)例えば皆さ んが持っているボールペンがありますと"そのボールペンを持っている"ということで所有権を主張している ことになります。ところが、不動産の場合、例えば土地を所有している人がいても、その土地を実際に持つ 訳にはいきません。又、絶えず人に取られないように見張っている訳にもいきませんよね。まして、土地に 名前を書く事もできません。
そこでその人がその土地の所有権を主張できる方法として登記という手法が考え出されたのです。これは 建物についても同じです。登記をすることによって他の人に所有権を主張できるのです。これを『登記の対 抗力』若しくは『公示の原則』といいます。

では、"登記をしている人はその不動産の所有者なのか?"という問題があります。なんか禅問答のような ややこしい話ですが、"登記をしている人を所有者と信じて良いか?"と言う事です。どうでしょう?
答えは『信じてはいけません』
登記をしているからといって、本当の所有者とは限らないのです。
例えば、もうすでに誰かと契約をして売り渡しているかもしれません。又、誰かを騙して登記をしただけか もしれないのです。つまり、そういう人からその不動産を買い取っても所有者になれるかどうかはわからな いのです。
ひとつの例でお話しますと、Aさんが所有している土地を貴方が買おうと思ったとします。法務局に行って 登記を調べてみると確かにAさんの名義になっている。よしよし大丈夫だと思って契約してAさんにお金を 払いましたが、いつまでも貴方に登記をしてくれない。おかしいなと思ってAさんを問い詰めると貴方との契 約の後にBさんとも同じように契約をしてすでに登記を済ましている。
っとなった場合、登記の名前を信じて買ったとしても、また先に契約をしていたとしても貴方はその土地を 取得することができないのです。
なんか理不尽な感じですよね。(当然、Aさんとの損害賠償の問題は発生しますが)公の機関である法務 局の登記を信じて、貴方は取引したのに法は守ってくれないのです。この事を、登記には公信力がないと 言っています。

このように物件変動を第三者に公示するためには、対抗要件が必要であるという考え方を公示の原則と いいます。
すなわち公示を要求するという考え方です。

ところで、上記のすでに(先に)登記を済ませたBさんは、貴方に対してこの不動産の所有権を主張できる のです。これが、登記の対抗力です。
民法177条には、『不動産に関する物権の得(とく)喪(そう)及び変更は、不動産登記法その他の登記に関 する法律の定めるところに従い、その登記をしなければ第三者に対抗することができない。』と記載されて います。
つまり、自分の不動産の所有権を守りたければ、登記をしておかないといけないのです。

ところで、この民法177条の第三者とは、誰のことでしょう?
どういう人を第三者と言うのかが問題です。
数十年前までの判例では、第三者とは、当事者以外のほとんどの人のことを指していました。
つまり、「登記をしていないと他の誰に対してもその権利を主張できない。」としていたのです。

しかし、明らかに悪意を持った者まで登記によって保護をする必要があるのか?という問題もあります。
そこで現在では、「登記の欠?(けつけつ)を主張する正当な利益を有する。」第三者の意味であるとして、 第三者の範囲を限定しています。
う〜〜ん。難しいですね。
たとえば先程の例で、先に登記をしたBさんは、貴方に対し、「私は登記していますよ。あなたは登記して ない(登記の欠?(けつけつ))でしょ。だから、私の勝ちですよ。」と、言う訳です。(悔しかったら登記してみ な、という感じですね。)
しかし、貴方は「Bさん、あなたはそんな事を言える立場ですか?明らかにBさんが悪いでしょ。」と反論で きる場合は、必ずしも登記をした人が勝つわけではないとしているのです。
登記がなくても権利を主張できる第三者として、
   @不法行為者
   A不法占拠者
   B無権利者
   C詐欺又は強迫によって登記を妨げた者
   D他人のために登記を申請する義務を負う者
   E背信的悪意者
を、あげています。
つまり、Bさんが上記の@〜Eの場合には、「貴方に登記がなくても権利を主張できますよ。」としているの です。
不法行為者とは、法律を犯して登記をした者のことですね。
不法占拠者とは、権利がないのに占拠している者のことです。
他人のために登記を申請する義務を負う者とは、先ほどのAさんやAさんの相続人などですね。
背信的悪意者とは、単に貴方に登記が無い事を知っているだけではなく、登記が無い事をいいことに、権 利を横取りしたような者のことです。

すこし、ややこしい話になりましたが、まずは不動産を買ったら、すぐに登記をすることですね。そして、登 記をしているというだけで売主を信じないようにしなければなりません。

(南)
2007/1

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