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構造力学 その.3
(2006年3月号 VOL.56)

そこで、先程のトラス構造で屋根を造ることになります。
例えば、マッチ棒を折る場合一般的に端と端を持って真ん中を押し上げますよね。
それはマッチ棒が曲げモーメントに弱いと、皆さんが経験上ご存知だからです。
マッチ棒の端と端を持って引張ったり押したりして折ろうとはしませんね。
マッチ棒を引張って2つに折る力は、マッチ棒を真ん中で折るのに必要な力の33倍もの力が必要になりま す。
そこで、このマッチ棒に引張(若しくは圧縮)の力だけが働くような構造を組上げていけば強い構造物が作 れます。
マッチ棒とマッチ棒の接合部を先ほどのピン構造にすれば、曲げモーメントやせん段力は伝わりません。
それがトラス構造です。
トラスは大空間の天井や橋から宇宙ステーションまで、さまざまなところで使われています。
この"応力の3形態""支点の3形態""構造の3形態"は建築物の構造計算をする上での構造力学の基本と なります。
実際に、建築物の構造設計をするには、建築物の高さや構造の種別によっては、
"許容応力度" 
"層間変形角"
"剛性率"
"偏心率"
"保有水平耐力計算"
"限界体力計算"
などの難しい計算まで、しなければならない場合も出てきます。

「許容応力度」・・・その部材がどのくらいの力まで耐えられるか。
「層間変形角」・・・建物に力がかかった時に、下の階に対して上の階が水平移動して変形しますが、この 変形量を階高で割った値。建築基準法では1/200以下にしないといけません。
「剛性率」・・・ある階の層変形角の全体平均に対する比率。全体平均に対する比率を0.6以上になるよう な、バランスのよい構造設計をして弱い階層を作らないようにするために検討する。
「偏心率」・・・建物の耐力壁が片寄って配置されますと、地震の水平力を受けると平面的に回転しようとす る力が働きます。そこで回転(ねじれ)の度合いを0.15以下になるよう確認します。
「保有水平耐力計算」・・・地震時の水平の動きに対して建物が倒れないよう限界の力の計算。
「限界耐力計算」・・・地震力に対して建物が耐え続けるとき、修復可能な時点での体力(損傷限界耐力)と 地震動に反応して耐え続け、ボロボロになっても建ち続けられる時点での耐力(安全限界耐力)の計算。
こうなってくると、専門的な数式が必要になってきます。
一方、建築工法での技術開発も進み、直径200m級の大空間をとる工法として、空気膜構造のドーム(東 京ドーム)や、鉄骨の引張力の強さとトラス構造を組合わせた鉄骨ドーム(福岡ドーム、ナゴヤドーム)など も造られています。
空気膜構造は、風船が空気を送り込まれることによって形造られるという原理を建物に応用したもので、 常に室内の空気圧を外気圧より高めておくことによって屋根を支持する構造形式です。
東京ドームを出るときに風圧で押出されるような感覚がありますよね。
また、鉄はコンクリ−トと比較しますと、引張に対して強い材料なので同じ大きさの空間を構成する場合、 鉄骨造のほうが鉄筋コンクリ−ト造よりも軽い建物を作ることができます。この鉄骨造の特長に、立体トラ ス等を用いることによって鉄筋コンクリ−ト造よりも大規模空間を作ることができる長所を有しているのが 鉄骨ドームです。

これからも新技術が開発され、そのうち500m級1000m級の大空間がとれる構造が開発されるかもしれま せんね。
そうすれば、どんなスポーツでも室内で出来るようになるかもしれませんし、天候に左右されない巨大テー マパークやリゾート施設が造られるかもしれません。
本来、建築はこのように人々の"夢"を叶えていくものでなければなりませんよね。

(南)
2006/3

   
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